近年「理学療法士が余っている」といった話を見聞きしたことがある方もいるかもしれません。
これから理学療法士を目指したい方にとっては、理学療法士に将来性はあるかどうか気になりますよね。
今回の記事では、理学療法士が飽和状態であると言われる理由に加えて、理学療法士の将来性や必要とされる理学療法士になるための方法を解説します。
1.理学療法士は飽和状態?将来性はあるのか?
結論から言えば、理学療法士はこれからも高い将来性が見込まれる職業ですが、飽和状態、と言われるのには理由があります。
なぜ理学療法士が飽和状態と言われるのかの理由と、理学療法士の将来性について解説します。
理学療法士が飽和状態と言われる理由
理学療法士が飽和状態と言われる背景にある理由を順に解説します。
1.養成校、受験者数の増加
ひとつめの理由が、理学療法士の養成校や受験者数が増加したことにより、理学療法士資格を持つ人が増加傾向にあることです。
公益社団法人日本理学療法士協会が公表している統計情報によると、日本全国の理学療法士の養成校は増加傾向で推移しています。
学校の定員数の変化がそれを物語っており、平成初期に1,000名弱だったのに対し、平成6年度には2倍の2,000名、平成12年度にはさらに倍の4,000名越えと、急激なスピードで増加しています。
令和3年度現在の全国の養成校の数は279校、定員数は14,574名です。
理学療法士国家試験合格者も、年々増加しています。平成初期には1万人にみたなかった合格者数が平成4年度には1万人を突破、わずか7年後の平成11年度には2倍の2万人を突破しています。
このように急激なスピードで合格者も増加し、令和4年度の合格者は13万6,357人までに上ります。
2.試験の難易度低下により目指しやすくなった
理学療法士になるには、理学療法士国家試験に合格する必要があります。
理学療法士国家試験は他の医療系国家試験と比較しても合格率が高く、資格を取得しやすいのも理学療法士の有資格者が増えた理由のひとつです。
公益社団法人日本理学療法士協会が公表している理学療法士国家資格合格者の統計情報によると、近年の合格率は令和3年度79%、令和4年度79.6%、令和5年度87.4%と、高水準で推移しています。
3.理学療法士は最低限必要な人数が少ない
医療機関で配置される理学療法士の人数は、他の医療職と比較すると少ない傾向にあります。
令和5年版厚生労働白書によると、日本全国の医療従事者の数は、医師が32万3,700人、看護師が132万420人であるのに対して、理学療法士は10万964人です。
医師や看護師といった医療職は病院や診療所の診療科目を問わず、多くの人員が必要です。一方で理学療法士を配置する診療科目は整形外科やリハビリ科に限定されます。
整形外科やリハビリを専門とした大規模な医療機関でない限り、配置される理学療法士の数は1~数人であることが多く、母数に対して職場の配置人数が少ないのも、理学療法士が飽和状態と言われる理由と考えられるでしょう。
4.離職が少ない
理学療法士の就職先は病院やクリニック、診療所といった医療機関がほとんどです。
公益社団法人日本理学療法士協会の資料「理学療法士を取り巻く状況について」でも、理学療法士の就業先の80%以上を病院が占めているとしています 。
病院をはじめとした医療機関は、一般企業と比較すると倒産のリスクが低く、安定して働けることや、理学療法士の離職率が低いことで、新規の募集が出にくいことも理学療法士が飽和していると言える理由のひとつです。
理学療法士に将来性があると言える理由
これまで、理学療法士の有資格者は増加傾向にあるものの、配置人数が少ない、求人が出にくいといった理由から、理学療法士は飽和状態であると言われるようになりました。
しかし、理学療法士は今後も高いニーズが期待できる将来性の高い職種です。なぜ将来性があるかと言える理由について解説します。
高齢化の進行による需要増加
日本は諸外国と比較しても少子高齢化が進んでいます。
厚生労働省では、2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は39%の水準になると推計されている、 と公表しました。
今後さらに高齢化が進むことで、介護予防や日常生活動作の維持などを目的に、リハビリを必要とする高齢者の方の割合が増加すると予想されます。そのため、リハビリを提供する理学療法士の需要は今後増えて行くと言えるでしょう。
活躍できる場の拡大による需要増加
理学療法士の就業先は病院などの医療機関が大きく占めていますが、実は他の就業先でも多くの理学療法士が活躍しています。
先ほどご紹介した「理学療法士を取り巻く状況について」によると、日本全国の理学療法士の10%が介護分野で就業しており、ほかにも身体障害者福祉施設、児童福祉施設、障害者自立支援施設などの福祉分野、大学、短期大学、専門学校、研究施設などの教育機関、市町村、保健所などの行政に就業している理学療法士がいます 。
理学療法士の活躍の場も多様化しているため、今後も病院以外でも理学療法士が必要とされる機会は多くなると言えるでしょう。
2.必要とされる理学療法士になるためにできること
理学療法士は将来性が高いと言えるものの、有資格者の数が増えていることからライバルは増えていると言えます。自分が理学療法士としてやりたい仕事に就くためには、必要とされる理学療法士となる必要があります。
必要とされる理学療法士になるために、やっておきたいことを解説します。
認定理学療法士・専門理学療法士の資格取得
理学療法士に関する資格を取得することで、技術力の高さや他の理学療法士との差別化につながります。
たとえば、公益社団法人日本理学療法士協会ではより専門性を磨きたい理学療法士を対象に、認定理学療法士および専門理学療法士の制度設けています。
認定理学療法士は指定研修や臨床の各認定カリキュラムの受講、専門理学療法士は口頭試問や論文提出などを経て認定されれば資格取得となります。
他の資格を取得し、臨床の幅を広げる
理学療法士と併用可能な、臨床に活用できる資格を取得するのもおすすめです。たとえば以下のような資格を取得すれば、介護や福祉分野での関連技術を持つ証明となります。
・福祉住環境コーディネーター
・健康運動実践指導者
・シューフィッター
・義肢装具士
・ケアマネージャー など
自分の得意な分野を見つけ、極める
理学療法士が提供する理学療法やリハビリにはさまざまな手法技術があり、自分が得意な分野を極めることで、臨床の現場の武器として活用できます。
たとえばテーピングやマッサージ、呼吸リハなどです。得意な分野を持つ理学療法士は、医師や看護師からも信頼されやすく、連携も取りやすくなります。
患者さんにしっかりと向き合う
今後さまざまな分野でAI化が進み、人間の仕事がAIに取って代わられると言われています。
株式会社野村総合研究所と、英オックスフォード大学の共同研究では、10~20 年後に、日本の 労働人口の約49%が就いている職業をAIが代替することが可能となるとの推計結果も得られています。
ただしAI化によって理学療法士の仕事がなくなってしまう可能性はほぼありません。
理学療法士はただリハビリを提供するのではなく、患者さんや利用者さんの状況や環境に合わせた、一人ひとりへの適切なリハビリや心のケアを行います。
AIにはできない、人間だからこその患者さんに向き合ったケアやリハビリを提供できる理学療法士が、今後必要になっていくと言えるでしょう。
3.まとめ:理学療法士に将来性、需要はある!専門性を高め、長く必要とされる理学療法士に!
理学療法士は飽和状態にある、と言われている背景には理学療法士そのものの増加などの理由があります。
ただし、今後も高齢化社会や働く場所の多様化に応じて、理学療法士には高い需要が見込めます。
長く必要とされる理学療法士を目指して、今後もさまざまな分野で活躍しましょう。
理学療法士の求人を探す【参照サイト】
統計情報 理学療法士国家試験合格者の推移 養成校数の推移|公益社団法人日本理学療法士協会
令和5年版厚生労働白書 保健医療|厚生労働省
公益社団法人日本理学療法士協会 理学療法士を取り巻く状況について|厚生労働省
我が国の人口について|厚生労働省
認定・専門理学療法士制度について|公益社団法人日本理学療法士協会
日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~|野村総合研究所