国家資格を持ち、人々の健康をサポートする鍼灸師は、時に「やめとけ」、「しんどい」、「生活ができない」と言われる職業でもあります。
+αの資格やスキルを活かし、幅広い業界で働くことができる鍼灸師が、なぜ「やめとけ」と言われるのか、身体の内側から健康を目指す人が増える近年において、治療家として支持される鍼灸師のメリット、向いている人の特徴をご紹介していきます。
1.鍼灸師とは
鍼灸師とは、「はり師」と「きゅう師」の国家資格を持ち、病気の改善や予防を促すための治療を行う人のことです。
養成学校で学び、国家資格を取得したあとは、鍼灸院や鍼灸整骨院で働くことが一般的です。近年では、“健康づくりのプロ”として、美容やスポーツ業界で働く鍼灸師も増えています。
いわゆる「手に職」があり、幅広い業界で活躍できる可能性が高い仕事と言えるでしょう。
2.鍼灸師はやめとけと言われる理由8選
「手に職」がある職業として、様々な働き方が可能な鍼灸師ですが、「やめとけ」、「しんどい」、さらには「生活できない」と言われることもあります。なぜなのでしょうか?
ここでは、「鍼灸師はやめとけ」と言われる理由8選をそれぞれ解説します。
2-1.鍼灸師レベルでも鍼灸院レベルでも競合が多い
一つ目は「競合が多い」ことです。
厚生労働省「衛生行政報告令(就業医療関係者)の概況」によると、令和2年末時点で「はり及びきゅうを行う治療所」は32,103ヶ所あり、これは10年前の21,065ヶ所から1万ヶ所以上も増えています。
また、「はり師」、「きゅう師」の資格を持つ人は、10年前から 約68,000人増え、251,754人となり、世間の健康意識への高まりに比例して、それぞれが増加傾向にあります。
「働き口が多そう」と期待してしまいがちですが、治療所や鍼灸師が増えたということは、一つの治療所に多くの患者さんを集めることが難しくなるなど、競合が増えていることを意味しているのです。
このことが、需要の高さに比べて“稼げない”というデメリットを生み、「やめとけ」と言われる理由の一つになっています。
2-2.給料が低すぎて生活できない
国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、企業で働く人の平均年収は443万円です。一方、鍼灸師の平均年収は353万円です。
また、年齢別にみると、20~29歳が288.5万円、30~39歳では321.5万円が平均年収 であることから、毎月の手取り額は約20万円前後 といったところが現実的でしょう。
「はり師」と「きゅう師」、2つの国家資格が必要な専門性が高い職業にしては、賃金が低く、生活できないと不安になるでしょう。
2-3.専門学校の学費が高い
学費が高いことも理由の一つです。
鍼灸師の学校は3年制の専門学校がほとんどで、学費の総額は、400~500万円が一般的です。一般的な4年制大学の390万円前後(私立大学)と比べると高額だということが分かります。
2-4.鍼灸師になるまでの期間が長い
学校に通い、国家試験も合格。就職してやっと働けると思っても、実はそうではありません。
実務で働く前に1~3年程度、研修を受ける必要があり一人前として働くことができるまでに5~8年ほどかかると言われています。
2-5.ビジネススキルが向上しない
一般的な企業の導入研修では、ビジネスマナーやコミュニケーションなど、“社会人の基礎”を学びながらチームワーク、マーケティング力などを鍛えていきます。
対して鍼灸師は、鍼灸師として働くために必要な知識や技術を学ぶ臨床研修がメインです。社会人の基礎を学ぶ機会が一般企業に入社した友人より少なくなってしまうことがデメリットになる場合もあるでしょう。
2-6.労働時間が長い
労働時間が長いことから「やめとけ」と言われることもしばしば理由の一つになります。
鍼灸院で働くとなれば、次のようなスケジュールをこなし片付けや雑務を終えて退勤となるのが一般的なスケジュールです。
8:30~8:45 | 出勤、ミーティングや清掃などの開店準備 |
9:00~12:00 | 午前の診療 |
14:00~19:00 | 午後の診療 |
これに加え、知識・技術の向上を目的とした勉強会や会議などもあり、実際の労働時間は長いことから「つらい」と感じることもあります。
2-7.肉体労働がきつい
鍼灸師は、ヒアリング、不調原因の特定、治療と息つく間もなく1時間前後の診療を立ち仕事で行います。
これに加え、開店準備や治療毎に行う道具の準備、治療所によっては清算や予約、道具の在庫管理などの雑務もあり、まさに肉体労働でしょう。
このようなことから、「身体的にきつい」と感じ、鍼灸師になったことを後悔してしまう人も少なくありません。
2-8.年齢が上がるにつれて働きにくくなる
「鍼灸師はやめとけ」と言われる最後の理由は、年齢とともに感じる働きにくさです。肉体労働に加え、指先の感覚をたよりに正確なツボに細い針をさす細かい作業です。
どんなに健康だと思っていても、年齢による体力や視力の低下は、働きにくさの要因となるでしょう。
3.鍼灸師になる5つのメリット
さて、鍼灸師はやめとけと言われる理由8選をご紹介しましたが、共感や納得などはありましたか?ネガティブな面が多いように感じますが、以下で紹介するメリットもあります。
①.多くの患者さんの健康に寄り添うことができる
まずは、多くの患者さんの病気改善、予防に関与できることです。
鍼灸治療は、病気の根本的原因を突き止め、その原因を取り除く治療を昔から行ってきました。また「未病を治す」という考えのもと、人が本来持つ自然治癒力を引き出すことで、病気の予防にも一役買っているのです。
昨今では「人生100年時代」を迎え、 “健康管理はまず体質改善から”など、病気にならない身体を作る習慣が浸透しつつあります。
その習慣として、病気の改善と予防を促す鍼灸治療は最適であると言えるでしょう。不調を訴える患者さんに寄り添い、自分が行った治療で健康になってもらうことは、鍼灸師としてのやりがいを感じる最大のメリットではないでしょうか。
②.スポーツや美容など、多岐にわたる分野で活躍できる
疲労回復や怪我の治療・予防を専門とするスポーツ鍼灸は、野球選手や、バスケットボール選手、趣味でスポーツをしている人まで様々な人の治療が可能です。
さらにスポーツトレーナーの資格を取得すれば、スポーツ選手の一番身近な存在として心身両方のケアを行い、最高のパフォーマンスを支えていくことも夢ではないでしょう。
一方、『身体の内側からキレイをつくる』ことを意味する『インナービューティー』が注目されるようになったことで、しわ改善などの外見的な施術はもちろん、ホルモンバランスの改善やストレス緩和などが期待できる美容鍼灸という分野もあります。
このように様々な分野で活躍することができ、幅広い視野を持って働くことができるのは鍼灸師のメリットです。
③.国家資格で、WHO(世界保健機関)にも重要性を認められている
鍼灸治療は、いわば医学の一部です。「鍼灸を行う医師として治療ができる」と国に認められた人と言っても過言ではないでしょう。
さらには2008年、見解が異なっていた経穴に関する基準が世界的に統一されたことで、鍼灸治療が様々な疾患に対する治療に重要であるとWHOに認められたのです。
世界中で行われるようになった鍼灸治療。あなたが望めば、世界で活躍する鍼灸師になることも不可能ではありません。
④.独立開業できる
「はり師」と「きゅう師」は国家資格取得と同時に開業権も得ることができます。
デメリットとして上げたビジネススキル、マーケティングなどは、オンライン学習などの独学でも十分に身に付けることができます。
独学では身に付かない鍼灸師のスキルと独学で身に付けるビジネススキルの両方をバランスよく鍛えることで、独立開業も実現できるのが鍼灸師のメリットです。
⑤.いい評判を集めれば高収入につながる
SNSでの宣伝が主流になりつつある中で、治療模様の動画や、どのツボが何の症状に効果的かなどを画像でアップする鍼灸院もあります。
競合が多くても、幅広い人が関心を持ち「治療してみたい」と思ってもらうことができれば、予約率のアップや値上げの効果も期待できます。また、負担軽減のために人を雇うことも容易になるでしょう。
「キツイ、大変、生活できない」という鍼灸師のイメージを自身で払拭することができ、負担を減らしながらも高収入を得るなど、良い施術が評判を集め、更なる好循環につながっていくのです。
4.鍼灸師に向いている人の特徴
メリットを通して、鍼灸師の良さを再認識できるきっかけとなっていただけたでしょうか?最後に、鍼灸師に向いている人の特徴をご紹介します。
4-1コミュニケーション能力が高い人
鍼灸師の仕事は、例えば「膝が痛い」と言われて、その痛みを取り除くだけの治療をすることはないでしょう。
生活習慣や他の悩みを聞きながら、「膝が痛い」の症状がいつからか、いつ起きるのか、どの程度痛いかなど、痛みの原因を突き止め、その患者さんに合った治療のためにヒアリングをするとことから始まります。
またどのような症状で、どのような治療が必要なのかを分かりやすく説明したり、改善方法を伝えたりすることも大事な仕事です。
鍼灸師をしているあなたに、「KY活動をやったあと、キャットウォークを作るぞ」と土木関係の専門用語を言われても分からないのと同じで、患者さんは医学的根拠や専門用語を言われても理解するのが難しいです。
鍼灸治療の基本である根本的原因の特定をするためのヒアリングと、患者さんにも分かる言葉で説明する能力が必要とされることから、コミュニケーション能力が高い人は鍼灸師向きと言えます。
4-2.向上心が高い人
東洋医学の一分野として始まった鍼灸は、活躍できる分野の拡大により今や西洋医学や美容学、スポーツ学などとも連携が図られようとしています。
新しい技術や知識がアップデートされるごとに、自身でも勉強し続ける必要があるため、向上心があり、日々努力できる人は鍼灸師に向いているでしょう。
4-3.健康に自信がある人
健康をサポートする鍼灸師であるからには、まず自分が健康でいる必要があります。
見るからに不健康そうな鍼灸師に治療をしてもらいたいと思う患者さんはいないでしょう。拘束時間の長さや肉体労働をこなすことも考えると、自身の健康管理ができる人が向いています。
4-4.決意の強い人
鍼灸師は、専門学校での勉学から就職後の研修という過程を経て、ようやく一人前として患者さんに治療ができる職業です。
辛抱強く諦めずに努力ができる、絶対鍼灸師になるという強い決意が必要です。
5. まとめ:鍼灸師を目指すかは自分次第!
ネガティブな面が多く、鍼灸師になって後悔した、つらいから続けられないと思う人もいる一方で、独立や自分の地位を確立することで楽しく働いている鍼灸師も多くいます。
ここまで読んできたあなたはどう感じたでしょうか?
ぜひ5~10年後の未来を想像してみてください。
どんな職場で働いて、どんな人と関わり、どんな一日を過ごしているのか…
もし、鍼灸師となった自分の姿にワクワクしたり、夢が膨らむようであれば、諦めずに目指してみましょう。
鍼灸師の求人を探す【参照サイト】
令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(厚生労働省)3 就業あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師及び治療所
令和3年分 民間給与実態統計調査