理学療法士はおもに整形外科などの医療機関で患者さんへリハビリを提供することが仕事ですが、活躍の場も医療機関以外に広がっています。
業務や働く場所に応じた資格を取得することで、理学療法士としてのスキルアップも可能です。
今回はマルチに活躍できる理学療法士や、理学療法士のスペシャリストを目指したい方のために、理学療法士のスキルアップに役立つ資格を合計18個ご紹介します。
1.理学療法士としてのスキルアップ資格
理学療法士としてのスペシャリストを目指したい方におすすめの資格が、「認定理学療法士」と「専門理学療法士」のふたつです。それぞれの資格について解説します。
資格①.認定理学療法士
認定理学療法士とは、公益社団法人日本理学療法士協会が実施している資格です。日本理学療法士協会では、さまざまな領域に従事する理学療法士の働き方に応じた多様性の深化を目的に、持続可能な生涯学習制度として認定理学療法士の制度を設けています。
認定理学療法士は脳卒中、発達障害、スポーツ理学療法など21の領域に分かれており、認定領域ごとの資格取得が可能です。たとえばスポーツ理学療法の認定理学療法士資格を取得すれば「スポーツ理学療法認定理学療法士」を名乗ることができます。
認定理学療法士資格を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
・日本理学療法士協会の登録理学療法士になる(前期講習、後期講習の受講)
・eラーニングによる指定研修カリキュラム12コマ(18時間)の受講
・オンラインまたは対面による臨床認定カリキュラム(必須22.5時間・選択7.5時間以上)の受講
・日本理学療法学術研修大会への参加
認定理学療法士は取得まで最短で3年が必要 と時間はかかりますが、理学療法士として特定分野に強みがほしいと考える方にぴったりの資格でしょう。
資格②.専門理学療法士
専門理学療法士も、認定理学療法士と同じく公益社団法人日本理学療法士協会が実施している資格であり、生涯学習制度です。認定理学療法士の上位資格にあたります。
専門理学療法士は小児理学、神経理学、スポーツ理学などの13の領域で構成され、認定領域ごとの資格取得が可能です。たとえばスポーツ理学の専門理学療法士資格を取得すれば「スポーツ理学専門理学療法士」を名乗ることができます。
認定理学療法士資格を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
・日本理学療法士協会の登録理学療法士になる(前期講習、後期講習の受講)
・eラーニングによる指定研修カリキュラム12コマ(18時間)の受講
・ブロック学会参加
・都道府県学会への参加
・日本理学療法学会連合の会員団体が主催の学術大会での発表
・査読付き原著論文業績
認定理学療法士は取得まで最短で6年が必要で す。理学療法士のスペシャリストとして理学療法や臨床への豊富な知識やスキルを持っている証明となり、転職やキャリアアップにも有利となるでしょう。
2.理学療法士でリハビリの可能性を広げる資格
理学療法士がおもに提供する「リハビリ」の可能性を広げられる資格には、以下のものがあります。
・介護支援専門員(ケアマネージャー)
・健康運動指導士
・栄養サポートチーム専門療法士
・義肢装具士
・福祉住環境コーディネーター
それぞれの資格について解説します。
資格③.介護支援専門員(ケアマネージャー)
介護支援専門員とは、厚生労働省によって認定される資格で、ケアマネージャーとも呼ばれています。ケアマネージャーは要介護者やその支援者の相談を受け、ケアプランの作成や必要に応じた業者との調整、介護保険施設への紹介などを行います。
ただ相談にのり紹介するだけでなく、施設等のサービスを利用している利用者が自立した日常生活を営むことができるように施設サービス計画の作成なども担っています。
そのため、デスクワークが多くなり年齢による体力の低下などの理由で理学療法士として働ける自信がなくなりそうなときなどに活用できる資格です。
介護支援専門員資格は、理学療法士として保健医療福祉分野での5年以上の実務経験を積んだあと、介護支援専門員実務研修受講試験に合格し、介護支援専門員実務研修の課程を修了することで取得 できます。
資格④.健康運動指導士
健康運動指導士は、公益財団法人健康・体力づくり事業財団が認定する資格です。
保健医療関係者と協力しながら、安全で効果的な運動を行うためのプログラムの作成や実践、調整を行う役割を担います。生活習慣病や、生涯を通じた国民の健康づくりに寄与する目的で創設されました。
健康運動指導士は、今後生活習慣病予防や高齢化が進む日本社会において将来性の高い資格と言えます。理学療法士が健康運動指導士の資格を取得することで、生活習慣病予防に対する専門知識や運動に対する理解を深められます。
健康運動指導士資格を取得するには、健康運動指導士養成講習会を受講するか、健康運動指導士養成校の養成講座を修了して、健康運動指導士認定試験に合格する必要があります。なお資格は5年更新制です。
資格⑤.栄養サポートチーム専門療法士
栄養サポートチーム専門療法士とは、日本臨床栄養代謝学会が認定する資格です。NST専門療法士とも呼ばれ、臨床栄養学に関する優れた知識と技能を有していると認められることで取得できます。
栄養サポートチームの稼働認定施設は全国的に拡大傾向にあります。そのため栄養サポートチーム専門療法士は連携したチーム医療を行うために必須の存在です。
栄養サポートチーム専門療法士の資格の取得には、以下の要件を満たす必要があります。
・理学療法士・言語聴覚士・作業療法士いずれかの国家資格を有している
・3年以上の医療・福祉施設での勤務経験
・セミナーや講習会で必要単位取得
・合計40時間の実地修練を修了
資格⑥.義肢装具士
義肢装具士は、厚生労働省管轄の国家試験です。肢の製作やそれに伴う型採りなどは、義肢装具士に認められています。
理学療法士は、義肢を持つ患者さんへの理学療法やリハビリも行います。理学療法士としてだけでなく義肢装具士の両方の視点を持って患者さんに寄り添うことで、身体だけでなく心のケアにも結び付くでしょう。
資格⑦.福祉住環境コーディネーター
福祉住環境コーディネーターは、高齢者や障がい者が安全に快適に暮らせる住環境を提案するアドバイザーです。各種専門職と連携をとりながら、さまざまなプランやアドバイスを提示します。
福祉住環境コーディネーターとしての視点を持つことで、高齢者や障がい者の肩をサポートするための多角的な視点を得ることができます。
福祉住環境コーディネーターは1~3級まであり、試験に申込合格することで取得できます。
3.理学療法士がスポーツ分野で活躍するための資格
理学療法士は医療機関だけでなく、スポーツジムやスポーツチームといったスポーツ分野で活躍することもできます。スポーツ分野で活躍する理学療法士を目指したいときにおすすめの資格が以下の4つです。
・JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)
・JATAC-ATC(ジャパン・アスレティック・トレーナー)
・NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)認定パーソナルトレーナー)
・NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)
それぞれの資格について解説します。
資格⑧.JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)
JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)とは、JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)が認定する資格です。公認スポーツ指導者制度に基づき、以下の4つの役割に関する知識と実践能力を持つ人材として認定されます。
・スポーツ活動中の外傷・障害予防
・コンディショニングやリコンディショニング
・安全と健康管理
・医療資格者へ引き継ぐまでの救急対応
JSPO-ATは、共通科目(150時間)と専門科目(600時間)の講習会および自宅学習を修了し、知識確認テストおよび実技レベルを確認する実技確認テストに合格することで取得できます。
資格⑨.JATAC-ATC(ジャパン・アスレティック・トレーナー)
JATAC-ATC(ジャパン・アスレティック・トレーナー)とは、スポーツ外傷、障害予防の立場からスポーツを支える特定非営利活動法人ジャパン・アスレチック・トレーナーズ協会の正会員として登録することで名乗れる資格です。
次の要件を満たすことで取得できます。
・理学療法士、はり師・きゅう師、作業療法士、看護師などの資格取得
・2年制以上の専門学校、大学及び大学院においてスポーツ科学系のコースを卒業する
・研修会または通信教育にて臨床医学系専門科目の単位およびスポーツ科学分野の単位(4領域69単位)を取得する
資格⑩.NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)認定パーソナルトレーナー)
NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)認定パーソナルトレーナー)とは、専門的なフィットネス・ウエルネスに関する知識や実践できるスキルに加えてビジネスとして広報活動、管理業務、接客マナー、マーケティングなどのスキルとマインドを持つプロフェッショナルとして認定される資格です。
以下いずれかの方法で資格を取得できます。
・NESTA PFT認定試験を受験して合格する
・NESTAの開催する養成講座を受講して、修了後にNESTA PFT認定試験を受験して合格する
・通信教育方式にて学習し全章修了後、NESTA PFT認定試験を受験し合格する
資格⑪.NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)
NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)とは、NSCA-Japanによると健康と体力のニーズに関して、評価・動機づけ・教育・トレーニングやコンディショニング全般の指導を行う、優れた専門的能力をもつ人材を認定する資格です。
1996年よりNCCAの承認を受けた国際的にもっとも信頼性の高いパーソナルトレーナーの認定資格としています。
NSCA-CPTを取得するには以下の要件を満たす必要があります。
・NSCAジャパン会員である
・満18歳以上
・高等学校卒業者または高等学校卒業程度認定試験(旧:大学入学検定試験)合格者
・有効なCPR/AEDの認定者
・NSCA-CPT認定試験に合格する
4.独立開業を目指す理学療法士におすすめの国家資格
理学療法士には開業権がありませんが、以下の開業権が認められている国家資格をダブルライセンスとして取得することで、独立開業も目指せるようになります。
資格⑫.柔道整復師
資格⑬.あん摩マッサージ指圧師
資格⑭.鍼灸師
柔道整復師は、柔道整復術による骨折や捻挫、打撲などの治療を行う施術を提供する国家資格者です。あん摩マッサージ指圧師は、東洋医学に基づいたあん摩・マッサージ・指圧の3種類の手技を用いて患者様の身体的不調を改善する専門職です。
鍼灸師は、東洋医学に基づいた「はり」や「きゅう」を使った治療を行う専門職を指します。
いずれも各職種の養成学校を卒業した後、国家試験に合格することで資格を取得できます。各職種の概要や業務内容、なるための方法は以下の記事でくわしく解説しています。
柔道整復師とは?整体師との違いや柔道整復師の目指し方・就職先を徹底解説!
あん摩マッサージ指圧師になるには?資格の取得から就職、将来性を分かりやすく解説!
鍼灸師になるには?社会人や主婦でもなれる?仕事内容・就職先。年収について解説!
5.理学療法士が特定分野に専門性を高める資格
理学療法士として担当する患者さんの症状や状態に応じた、特定分野の専門性を高められる以下のような資格も存在します。
資格⑮.心臓リハビリテーション指導士
資格⑯.3学会合同呼吸療法認定士
資格⑰.認知症ケア専門士
資格⑱.日本糖尿病療養指導士
たとえば整形外科のリハビリ室や介護施設、訪問リハビリで働く理学療法士の中には、認知症の患者さんを多く担当する方もいるでしょう。
認知症ケア専門士の資格を取得していれば、認知症の患者さんの心に寄り添ったリハビリを提供できるようになります。
6.まとめ:理学療法士はダブルライセンスでキャリアアップ可能
理学療法士がキャリアアップを目指せる各資格の概要や取得方法を解説しました。
理学療法士は国家資格ですが、ほかの国家資格や民間資格をダブルライセンスとして取得することも可能です。
自分の専門性を高めたいときや、キャリアアップのために転職を目指したいとき、将来独立開業を目指したいときには、資格の取得もぜひ検討してみましょう。
理学療法士の求人を探す【参照サイト】
認定理学療法士制度 専門理学療法士制度|日本理学療法士協会
新生涯学習制度のイメージ(全体)
介護支援専門員(ケアマネージャー) 1ページ、2ページ|厚生労働省
健康運動指導士とは|公益財団法人健康・体力事業財団
「NST専門療法士」資格 受験・更新申請要件変更のお知らせ|日本臨床栄養代謝学会
アスレティックトレーナー 役割 受講内容|JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)
JATEC-ATCについて 資格要件|特定非営利活動法人ジャパン・アスレチック・トレーナーズ協会
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